初めてロードバイクに乗った頃にはすでにカーボンが台頭し始めていた時代。
アルミかカーボンがレースシーンを席捲していた。
10万円のロードバイクにも手が出なかった自分は、ネットオークションでボロボロのクロモリバイクを手に入れた。それは高校生の時に親にねだって2万円はしてなかった代物だったと思う。
タイヤは使えず、バーテープも化石のように固くひび割れ、触ればボロボロと崩れ落ちた。
チューブラータイヤというものに四苦八苦しながらも、自分で交換の方法を覚え、バーテープも自分で巻いたりしながらなんとか走れるようになっていった。
今思えばかなりレベルの低い処置であったけれど、走り出すにはそれでも十分だった。
御徒町にある有名ショップに行ってみたら、今は仕事を引退されてしまったTさんは親しみやすい人柄で、僕の古いロードバイクでもイヤな顔せず調整してくれた。綺麗なショップに持ち込むのが申し訳なくて、自分でやることの方が多かったけれど、練習環境やチームを紹介してくれて、僕の世界はぐっと広がり始めていった。
自分の乗っているロードバイクに、練習会では必ずと言っていいほど驚かれた。
錆の浮いたクロモリフレームはすでに生産していないNISHIKIという日本ブランド。それこそ自分が生まれた時にできたようなフレームだったと思う。
7800デュラエース、手元で変速できるSTIレバーで10速という時代の中で、ダウンチューブに手を伸ばして変速するダブルレバー。7速のシマノ105。
そんなボロのバイクでも周りの人たちよりも速く走ることが快感だった。
自転車を始めるきっかけとなったシャカリキの主人公テルもコンポーネントは105を使っていて、彼はSTIタイプだったけれど同グレードということに「言い訳無用」と自分を言い聞かせた。
レースへの参加が本格的になり始め、アルミやカーボンといったフレームに乗るようになった。それは古いクロモリフレームとは全く違う走りを提供してくれた。その時にはまだ、クロモリフレームにピンからキリまであるとはつゆ知らず、クロモリはもっさりしたものだという思い込みもあったりした。
「同じ値段を出すのに、重量の重いクロモリフレームに乗るのは馬鹿げてる」
それは本当につい最近まで僕もそういう風に考えていた。
クロモリの自転車には愛着もあるし、嫌いではない。でもレースのためのフレームじゃない。
そういう考えになっていた僕のもとに、クロモリフレームは再び戻ってきた。
寒川君が居て、彼からエクタープロトンという大阪のクロモリオーダーフレームを知る。
最初に乗ったときは「まぁこんなもんか。悪くないけど、ちょっと重いかな。」程度の感想だった。
レース会場やお店、練習の時にたくさんの自転車に乗らしてもらう機会があって、乗り味の記憶が蓄積していった。
硬さを求めたフレームもあったし、コストを安くしすぎてフニャフニャしたフレームもあった。
その中で、エクタープロトンは他では中々ないバネ感の強いフレームがとにかく気持ちよくバイクを進めてくれた。
バネ感といってもイメージが掴めないかもしれない。
フレームがしなるとパワーロスするというイメージが強いけれど、しなった後の動きで全てが変わる。
ペダリングによってフレームがしなった後に、フレームは元の形状に戻ろうとする。この戻ろうとする力がフレームの底の深さを表現するバロメーターのように思うようになった。
この戻ろうとする力が、新しく踏み込む方のぺダリングの力をアシストしてくれる感覚。
右足で踏んだ分が戻るときに、左足が吸い込まれる。次は右足。フレームが振り子のように揺れるのに合わせて漕ぐ。
そうすると、とっても気持ちよく進ませてくれる。
これと似た乗り味はごく一部のハイエンドなカーボンフレームでしか味わえていない。
積み重ねてきたものがあるから、どのフレームの振りにも合わせることはできる。
大きな力を入れないとたわまないフレームもあれば、しなりの戻りが遅いフレームもある。どちらにせよ、合わせると疲れるのが本音になる。
対して橋口さんの作るエクタープロトンは、"合わせる"感覚がない。自分が思ったように踏めば、それに応えてグイグイ進んでくれる。エクタープロトンは今まで何台も納車してきたけれど、1つとして外れは無かった。全部気持ちよく走るフレームだった。
だからこそ僕は再びクロモリフレームへの回帰を決意した。
ある程度の重量まで軽くなってくれれば、フレームの重さはカバーできる。
コンポーネントは新型のデュラエース9000を組み付け、重量はカーボンホイールを履かせると7.3kgほどで仕上がる。アルミのホイールでも8kgを割る重量で不満はない。この重量ならレースでも戦うことができる。
エクタープロトンの実業団デビュー戦となった伊豆修善寺の東日本ロード。今まで苦い記憶しかない修善寺CSC。
完走もままならないコースをあえて選んで出走することにした。
レースはいきなり落車に巻き込まれてしまって苦戦を強いられたものの、きっちりと完走につなげることができた。成績からすれば大したことはないのだけれど、僕の中では十分な結果だった。
それ以降もどんなライドでも、ゆっくりのロングライドでも気持ち良く乗らせてもらっている。
今まで乗ってきたバイクの中で一番気に入っている乗り味で、愛機と呼ぶのに相応しい。
まるで自転車の神様に導かれるように、今も昔もクロモリフレームと共にある。
今、市場に出回っている95%のカーボンフレームよりもエクタープロトンの方がいい。
カーボンも決して悪いものではないし、むしろ好きだ。
けれども、乗る人間としては常に気に入った一番ベストなものを使っていたいのだ。
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