2015年6月30日火曜日

忍びの才能

今年もロードレース日本チャンピオンを決める戦いが繰り広げられた。
残念なことに、自分はまだその場に立ったことはない。
応援にもメカニックにも行ったことがないあたり非国民と言われるのではないかとビビる毎年。

今回ひとつ違うところがあるとすれば、云わば弟子的な存在の彼がこの戦いの地に立ったのである。

彼とは、今年からロードレースJapanProTourに昇格して頑張っている井上君だ。
彼から、「パワーメーターを買う代わりにコーチングをお願いします。」と懇願されたことが始まりでトレーニングの指導が始まった。
指導には時間も取られるし、自分に指導の経験もないからほとんど渋々といった感じであったがお互い手探りで駒を進めて行った。

この10年間ほどで本当にたくさんの選手を見てきたけれど、
全日本選手権のスタートラインに立っている選手の中でも才能という面ではかなり低いレベルにある。
才能というか、センスというか。

基本的に単細胞的な印象が強くて、あれもこれもと器用にこなせるタイプではないことは分かった。
そして人の動きや雰囲気を読みとるセンスが光っているわけでもない。
正直、走りのテクニック面だけで言えば自分の方が優れているのではないかと思うほどに。
それでも彼は腐る事なく、日々鍛錬を欠かさない。
もうちょっと休めば?と言ってもあまり休もうとしないぐらいの勤勉さがある。
ので、さすがに休みが必要だと思わせるほど疲れさせるメニューをこなさせて休ませることも度々あったりする。

その真面目な姿勢のおかげで、昨年僕と同じE1カテゴリーを走っていた彼は
見事に何度かの入賞を経て今年からJPTというプロカテゴリーで走れる機会を得ることができた。
本当に不器用なので、レースごとの特徴に合わせることも毎度苦労していて、
さらにはカテゴリーアップの変化も相まって今年前半戦はとても厳しい状況だった。
自分が備えてきた実力に対して圧倒的に自信の弱い彼のために、
全日本前に何度か練習に付き合ってあげた。
なかなかデータばかりで直接走りを見る機会が無かったので、色々と指摘するところがあったが、
そのおかげか全日本を直前にかなり調子を上げることはできた様子でよかった。

しかし、一緒に走ったことで体力やパワーの圧倒的差を見せつけられ、
逆に自分の弱さを突き付けられてしまって少しショックを受けざるをえなかった。めう。

そして当日、
中継に耳を傾けながらトップチームに食らいついて走る彼の戦いに胸が熱くなった。
全然アカンか、完走してしうまうかのどちらかかな、と予想していたので期待も膨らんだ。
何度かのトラブルがあってラスト1周を残してタイムアウトとなってしまったけれど、
内容を後から聞けば頑張ったねと評価してあげたいと思った。

いつも精神力の弱さから、自分のリミッターを外せないタイプの凡庸な人間。
そんな彼がいつも以上に脚を攣りながらも耐え、食らいついて走っている姿には少し震える。
僕自身もツールドおきなわというレースで同じような脚を攣った経験があるので、
ああ、あそこまで頑張ったんだなと上から目線で評価した。
もちろん、走っているレベルは彼の方が上の土俵なのでお間違いなく。 
「私の才能を見抜く力は誰よりも確か…。あの子は私の目から見れば凡庸そのもの。」

「フッ…だからこそだ。ワシは"うちは"のガキなんていらねーよ。始めからできのいい天才を育てても面白くねーからのォ。」

「かつての自分を見ているようで放っておけないってワケ?生まれつき写輪眼という忍びの才を受け継ぐ"うちは"にあの子は勝てない。なぜならナルトくんは写輪眼を持っていない。忍びの才能とは世にある全ての術を用い、極めることが出来るか否かにある。…忍者とはその名の通り、忍術を扱う者を指す。」

「忍びの才能はそんなとこにありゃしねぇ。まだ分からねーのか…忍者とは、忍び堪える者のことなんだよ。」

「見解の相違ね。」

「ひとつてめーに教えといてやる。忍びの才能で一番大切なのは、持ってる術の数なんかじゃねェ…。大切なのは、諦めねェど根性だ…!」

-NARUTO 19巻より

* - * - * - *

全日本選手権ロードレース2015 Men's ELITE
井上選手 約67位/146 (うち完走64名)

失敗したこと、ダメだったこと、人に迷惑をかけたこと。
色々あったと思うけど次に次にと改善していったら周りも認めてくれるのではないかな。
これからの成長に期待。